「大将、まだかいな。わし、これから打ち合わせがあるさかい、早よぉして欲しい思て刺身定食を頼んだんやけどな」「えらいすんまへんな。この頃の魚は下ごしらえに時間がかかりますのや。ご存知のとおり、天然物の魚はこっちから来た空き缶をヒョッと避け、あっちから来たコンビニ袋の脇をサッと抜け、まあよう鍛えられてます。おかげで明石の鯛顔負けに身は締まってるんですが、やっぱりどうしても胃に要らんもんも入ってて…これがちょっと難儀ですわ」「ちょっとどころやないな、そのゴミの量。まあえぇわ。刺身が無理やったら、アラ炊きでも塩焼きでも何でもえぇさかい、なんぞ出してくれんか」「おおきに。ほなこれで」「何やこれ。…ツナ缶やないか」「へえ。今さっき、腹から出たばっかり。新鮮でっせ!」「…もう、えぇわ」
【作】 藤井沙矢子 京都精華大学芸術学部 マンガ学科カートゥーン・マンガコース2年生
【評】 ヨシトミヤスオ 京都精華大学芸術学部・ 教授