ソ~ラ、ぶったまげただよう。いっつもどおり畑に行ってみたらオメエ、オラの人参サ一本もねえんだから。前の日の夕方、草むしりサ終わった時には、たしかあったンだ。そんりゃあ、いまどき土植えの野菜なんだ、珍しいばかりでだれも食わねえだ。工場で種から出荷まで機械が管理しとる野菜のほうが安全やと思うとるだで。じゃけんで、オラはジイ様からもろうたこの土地で採れた本物の野菜を孫に見せちゃろう思うて、ここまで丹精込めて育てたに…。うんにゃ、植物は正直じゃいうこっちゃ。雨も酸性。お天とさんはカンカン。空気は真っ黒。こんなとこで育ってくれっちゅうのが厚かましいだな。だけんど、孫の土産はどうすっべな。この桶の中の肥でも見せちゃるかいの。
【作】 松下 知子 京都精華大学大学院 マンガ専攻4年
【評】 ヨシトミヤスオ 京都精華大学芸術学部・ 教授